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惨殺された妊婦の霊が宿った「夜泣き石」の伝承 細川幽斎が手にした名刀「小夜左文字」の不思議な繋がりとは?

日本史あやしい話

          

■山内一豊へと献上された短刀「小夜左文字」の謎

 

 さて、この「夜泣き石」伝説の舞台となった小夜の中山峠の名を聞いて、刀剣に詳しい御仁の中には、ピ〜ンと閃いた方もおられるのではないだろうか。ズバリ、国の重要文化財に指定された短刀「小夜左文字」(刃長24.5センチ)がそれである。その名にもあるように、この名刀が小夜の中山峠と関係しているというもう一つのお話も見逃せないのだ。

 

 実はこの刀、夫をなくした身重の女が、この峠で山賊に襲われた際に奪われたものだったとか。女はとある浪人の妻で、夫を亡くして生活が困窮。やむなく夫が所持していたこの名刀を売るために、峠を越えようとしていたというのだ。ここで産気付いた女が、男に刀を奪われた上殺されてしまったというところは前述の物語と変わらない。ただし、産まれた赤子を育てたのは、殺された女の妹だったとか。また、話に続きがあるというのも異なる。

 

 見事母の仇討ちを成し遂げたこの刀の研ぎ師を、掛川城主であった山内一豊が褒め称え、家臣として召抱えたと、まことしやかに語られているのだ。討ち果たした山賊から奪い返した短刀は、主君となった一豊に献上。これを後に細川幽斎が所望。幽斎亡き後、忠興、忠利へと引き継がれ、さらに福岡藩主・黒田家や広島藩主・浅野家等々、所有者が転々としたという、いわく付きの名剣なのであった。

 

 ともあれ、この刀が本当に、かの「夜泣き石」伝説と関わりがあるのかどうかは明確ではない。元から幽斎の愛刀であったと言われることもあるから、どちらを信じていいのやら?史実がどうだったのか白黒はっきりすべきだとは思いながらも、一方では玉虫色のままにしておいて欲しいと願う声も。伝説伝承に目を向ける際、いつもこの相反する思いに、悩まされてしまうことが多いのである。

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藤井勝彦ふじい かつひこ

1955年大阪生まれ。歴史紀行作家・写真家。『日本神話の迷宮』『日本神話の謎を歩く』(天夢人)、『邪馬台国』『三国志合戰事典』『図解三国志』『図解ダーティヒロイン』(新紀元社)、『神々が宿る絶景100』(宝島社)、『写真で見る三国志』『世界遺産 富士山を行く!』『世界の国ぐに ビジュアル事典』(メイツ出版)、『中国の世界遺産』(JTBパブリッシング)など、日本および中国の古代史関連等の書籍を多数出版している。

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